東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1663号 判決 1973年9月11日
原告 伊沢文子
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 加藤了
被告 西潟和紀
右訴訟代理人弁護士 佐藤泰正
被告 株式会社吉田モータース
右代表者代表取締役 境野忠夫
被告 境野忠夫
被告 大成火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役 野田朝夫
右三名訴訟代理人弁護士 赤坂軍治
主文
1 被告西潟和紀は原告伊沢文子に対し九八九万〇、二三九円および内金八三九万〇、二三九円については昭和四六年三月一七日から、内金一五〇万円については昭和四八年九月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告西潟和紀は原告伊沢良介、同伊沢雅子に対し各七三四万〇、二三九円およびこれに対する昭和四六年三月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
3 被告大成火災海上保険株式会社は原告らに対し一、〇〇〇万円およびこれに対する昭和四六年三月一三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 原告らの被告西潟和紀に対するその余の各請求、被告株式会社吉田モータース、同境野忠夫に対する各請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は原告らと被告西潟和紀との間では原告らに生じた費用を三分し、その一を被告西潟和紀の負担、原告らと被告株式会社吉田モータースおよび同境野忠夫との間では被告株式会社吉田モータースおよび同境野忠夫に生じた費用は原告らの負担、原告らと被告大成火災海上保険株式会社との間では原告らに生じた費用は被告大成火災海上保険株式会社の負担とし、その余は各自の負担とする。
6 この判決の主文第一項ないし第三項は仮に執行することができる。
事実
第一原告らの請求の趣旨
「被告西潟和紀(以下被告西潟という。)、同株式会社吉田モータース(以下被告会社という。)、同境野忠夫(以下被告境野という。)は各自原告伊沢文子(以下原告文子という。)に対し、金一、〇〇〇万六、四六六円および内金八五〇万六、四六六円については、被告西潟は昭和四六年三月一七日、被告会社は同月一四日、被告境野は同月一六日から、内金一五〇万円については本判決の言渡日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告西潟、同会社、同境野は各自原告伊沢良介(以下原告良介という。)、同伊沢雅子(以下原告雅子という。)に対し各金七三五万六、四六五円およびこれに対する被告西潟は昭和四六年三月一七日、被告会社は同月一四日被告境野は同月一六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、被告大成火災海上保険株式会社(以下被告大成という。)は原告らに対し一、〇〇〇万円およびこれに対する昭和四六年三月一三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決ならびに仮執行宣言を求める。
第二被告らの請求の趣旨に対する答弁
「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求める。
第三請求原因(原告ら)
一 事故の発生
伊沢計介(以下計介という。)はつぎの交通事故(以下本件事故という。)によって即死した。なお計介はその際その所有に属する(四)の自動車を損壊された。
(一) 発生時 昭和四五年三月二四日午前零時四〇分頃
(二) 発生地 東京都世田谷区玉川瀬田町三四八番地先国道二四六号線上
(三) 加害車 普通乗用自動車(品川五り二〇二二号、以下被告車という。)
運転者 被告西潟
(四) 被害車 普通乗用自動車(スバルA一二型、品川五ふ九〇三五号、以下原告車という。)
運転者 計介
(五) 態様 被告車がセンターラインを越え、対向してきた原告車と正面衝突した。
二 責任原因
(一) 被告西潟は、前方不注視等の運転上の過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、原告らの損害を賠償する責任がある。
(二) 被告会社は、次の理由により本件事故による原告らの損害を賠償すべき責任がある。
1 被告車は、被告会社の代表取締役である被告境野の所有名義であるが、被告会社は資本金二〇〇万円従業員二ないし三名の個人会社で被告会社において被告車の運行管理を行ない、かつこれを業務執行のために使用し、もって自己のため運行の用に供していたから被告会社は自賠法三条による責任がある。
2 被告会社は、被告西潟を使用し、同被告に自己が業務遂行に利用していた被告車を運転させたところ、同被告が前記過失により本件事故を発生させたから、民法七一五条による責任がある。
(三) 被告境野は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により、原告らの損害を賠償する責任がある。
(四) 被告大成
1 被告境野の代位による保険金請求
(1) 被告会社は、昭和四四年一〇月一六日被告大成との間で被告車について被保険者被告会社、保険限度額対人一人について一、〇〇〇万円とする対人賠償責任保険契約を締結した。
(2) 被告境野は被告車の保有者として、自賠法三条により本件事故によって原告らに生じた損害を賠償すべき責任を免れないが、同被告は被告会社の代表者本人であり、かつ、その承諾を得て被告車を使用中の者、すなわちいわゆる許諾被保険者であるから、保険金請求関係では右両被告は同一主体として扱われる。
(3) ところが、被告境野は今日に至るまで原告らに対し本件事故に関する損害賠償金の支払をしていないし、右保険金請求権を行使していない。
よって原告らは被告境野に代位して被告大成に対し保険金の支払を求める。
2 被告西潟の代位による保険金請求
(1) 被告会社は被告大成との間で前示1(1)のとおり対人賠償責任保険契約を締結した。
(2) 被告西潟は昭和四五年三月七日被告会社から被告車についての右保険契約にもとづく被保険者の権利の譲渡を受けた。
すなわち、被告車はもと被告境野の所有名義であったものであるが、被告境野は被告会社の代表者本人であり、かつ、保険契約上はその承諾を得て被告車を使用中の者で、いわゆる許諾被保険者であるから保険金請求関係では被告境野と被告会社は同一主体として扱われるものであるところ、被告境野は昭和四五年三月七日被告会社を通じて被告車の所有権を被告西潟に譲渡したものであり、その際右両被告の間で保険契約上の権利は被告会社もしくは被告境野に留保する旨の合意はなされていないから、右保険契約における被保険者の有する権利は被告車の譲渡と共に被告会社から被告西潟へ譲渡されたものである(商法六五〇条)。
(3) 被告西潟は民法七〇九条により本件事故による原告らの損害を賠償する責任があるが、今日に至るまで原告らに対し右賠償金の支払をしていないし、右保険金請求権を行使しない。
よって原告らは被告西潟に代位して被告大成に対し保険金の支払を求める。
3 債権者代位権の行使の要件として債務者が無資力であることを要するとしても、本件では被告境野、同西潟はいずれも右保険金請求権のほか資産を有していない。
4 なお、被告大成に対する保険金請求権は抽象的には事故発生と同時に発生していて、履行期の定めのない権利であるから、同被告は本訴状送達日の翌日である昭和四六年三月一三日から履行遅滞に陥るものというべきである。
≪省略≫
第四請求原因に対する認否
一 被告西潟
請求原因一項の事実中、被告車がセンターラインを越えて原告車と衝突したことは否認し、その余は認める。
請求原因二項(一)の事実は争う。
請求原因三項の事実はいずれも不知。
二 被告会社、同境野、同大成
請求原因一項(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は不知。
請求原因二項(一)の事実は不知、(二)の事実中被告境野が被告会社の代表取締役であることは認め、その余は争う。同(三)の事実中被告境野が被告車を所有していたことは認めるが、その余は争う。同(四)の1(1)の事実は認め、同(3)の事実中被告境野が原告らに本件損害賠償金の支払をしないことは認めるが、その余は争う。同2(1)の事実は認め、同(2)の事実中、被告車が被告境野の所有名義であったこと、同被告が昭和四五年三月七日被告会社を通じ被告西潟に対し被告車を所有権譲渡したことは認めるが、その余は争う。同(3)の事実、同3、4の事実は争う。
≪省略≫
第五抗弁および反論
一 被告会社、同境野、同大成
(運行供用者の地位の喪失)
被告車はもと被告境野が所有するところであったが、同被告は昭和四五年三月七日被告会社を通じ被告西潟に対し被告車を代金一一万円で売り渡し、即時その所有権を移転し、その引渡を了し、以後被告車についての運行支配および運行利益を喪失した。すなわち、被告西潟は当時東京信用販売株式会社に勤務し、分譲地の販売に従事していたもので、被告車を譲り受けた後、専ら自己の責任で被告車を運行していたものであり、同被告と被告会社および同境野との間には雇傭関係がないことは勿論、被告車についてもその買主と売主との関係に止まり、運行支配および運行利益の帰属を認め得るような事情は存在しない。
二 被告大成
(一) (保険契約上の権利の留保)
通常自動車の売買に際し、当該自動車を目的とする任意保険契約上の権利を譲渡しないのが、自動車保険業界における慣習である。ことに自動車保険契約において保険契約者は、被保険者が一定期間無事故であるときは、自動車保険料率算定会の取扱規定により、右期間に応じ最高五〇パーセントの割合で保険料の割引を享受でき、さらに保険期間中途において車両を入替または更改する場合、代替または更改車については現契約と同一の割引率による保険料の割引を受け得ることとされていて、右無事故割引資格者は当該車両の処分に際し、任意保険契約上の地位を譲渡する場合は残余期間の保険料を売買代金に上積し、保険証券を交付するものであって、このことのない限り保険契約上の権利を譲渡していないとみる保険業界の慣習が存する。被告会社は被告車について二年間の無事故により二〇パーセントの保険料割引の利益を受けていたものであり、被告車を被告西潟に譲渡したとはいえ、右慣習にもとづいて代替車について右割引利益を受ける意思を有していたもので、そのため保険契約によって生じた権利は自己に留保していたものである。
(二) (保険金請求権の不発生もしくは履行期未到来)
対人賠償責任保険契約にもとづいて被保険者が保険金請求権を行使するためには、被保険者と賠償請求権者との間で判決、和解、調停または書面による協定によって損害賠償責任額が確定していることを要する。すなわち保険金請求権は被保険者と賠償請求権者との間で賠償額が確定してはじめて発生し、かつ、これを行使し得ると考えられ、被保険者の債権者が被保険者を代位して保険会社に対し保険金を請求するときも右の理は異ならない。本件について、被告境野または被告西潟が被保険者であって、かつ、有責であるとしても、原告らと右被告らとの間で本件損害賠償額が確定していない現段階では被告大成に対する保険金請求は失当である。(また被告大成は原告らと被保険者との間で損害賠償額が確定すれば保険金の支払を故なく拒むものでないから、原告らは被告大成に対して請求する必要がない。)
(三) (自動車保険普通保険約款による免責)
被告会社が被告車について被告大成との間で締結した前示保険契約は自動車保険普通保険約款(以下普通約款という。)の適用を受けるべきものであり、普通約款三章三条において「保険契約締結後の下記の場合においては保険契約者または被保険者は遅滞なく、書面をもってこれを当会社に通知し、保険証券に承認の裏書を請求しなければならない。ただし、その事実がやんだ後はこの限りでない。(1)保険証券記載の自動車(原動機付自転車を含む。以下「自動車」という。)を譲渡するとき。((2)ないし(5)省略)2当会社は前項の事実が発生したときからその事実がやむまで(前項の承認裏書請求書を受領した後を除く。)の間に生じた損害をてん補する責に任じない。」との定めがあるところ、仮に右保険契約上の権利が被告会社から被告西潟に譲渡されたとしても、被告会社は今日に至るまで被告大成に対し普通約款三章三条一項にしたがって被告車の譲渡の事実を通知し、保険証券に承認の裏書の請求手続を履践していないから、同章同条二項の規定により被告大成は本件事故による損害を填補する責に任じない。
三 被告会社、同境野、同大成
(過失相殺)
計介は本件事故発生前において原告車を運転するにあたって前方注視し、安全運転を行なっていたならば、事前に被告西潟の運転状態に気づきハンドル操作によって本件事故の発生、少なくとも本件のような重大な結果を回避できたのに、当時飲酒して運転していたため前方不注視の過失を犯し、右過失は本件事故発生の一因となっているので、本件損害額の算定において斟酌すべきである。
第六抗弁および反論に対する認否(原告ら)
第五の一項の事実中、被告境野が昭和四五年三月七日被告会社を通じ被告西潟に対し被告車を代金一一万円で売り渡したことは認め、その余は争う。なお、被告境野は被告西潟との間で、売買代金の支払について契約時四万円、残額七万円は期限を定めず支払う、被告車の所有権は右代金完済のとき譲渡し、自動車検査証等の名義変更も右と同時に行うが、それまで被告西潟は被告車の使用をすることができる旨約して被告車を売り渡したもので、本件事故は被告西潟が右代金未済のうち発生したものである。したがって被告境野、同会社はなお被告車の運行支配および運行利益を有していたものである。
同二項(一)、(二)の事実はいずれも争い、(三)の事実中、普通約款の規定の内容および被告会社が被告大成に対し被告車について保険契約上の権利の譲渡の通知等の手続を履践しなかったことは認めるが、その余は争う。
同三項の事実は争う。
第七再抗弁(原告ら)
一 被告会社は、本件事故当時被告大成の保険代理店であったから、被告大成と被告会社との関係は本人と代理人との関係に相当し、被告車の譲渡については被告大成はこれを知っていたことになるというべきである(民法一〇一条)から、被告会社が普通約款三章三条一項にもとづいて譲渡の通知等をなす必要がないというべきである。
なお、被告大成は、被告会社が本件事故当時被告大成の保険代理店であったことを認める旨の陳述を撤回したが、原告らは右撤回について異議がある。
二 普通約款三章三条の規定は任意保険契約の保険期間の中途において、危険の増加があった場合に保険契約者または被保険者に通知義務等を課したものであるところ、本件では被告車が被告境野から被告西潟に譲渡されても保険団体の不利益に帰するような危険の増大は全く存しなかったものであるから、被告車の前掲譲渡についてはそもそも普通約款三章三条の規定の適用はないというべきである。仮に被告車の本件譲渡について普通約款三章三条の規定の適用があるとすれば、同規定は原告らの右主張に牴触する限度で無効である。
第八再抗弁に対する認否(被告大成)
再抗弁一項の事実中、被告会社が本件事故当時被告大成の代理店であったことは否認し、その余は争う。被告大成の右事実を認める旨の陳述(第一回口頭弁論期日)は真実に反し、かつ、錯誤にもとづいてなされたものであるから、これを撤回する。
再抗弁二項の事実は争う。
第九証拠関係≪省略≫
理由
一 事故の発生
請求原因一項(一)ないし(四)記載のとおり本件事故が発生したことは当事者間に争いがない。
二 責任原因
(一) 被告西潟の民法七〇九条による責任について
≪証拠省略≫によると、本件事故現場は、前掲国道上であるが、同国道は同現場付近においてほぼ南北に通じ、ガードレールによって歩車道が区別され、車道幅員は約一六、五メートル、道路中央に白線の中央線が表示され、最高速度は毎時五〇キロメートルと定められたアスファルト舗装道路であり、同国道を北側から同現場に向かうとゆるやかな下り坂で、かつ、現場付近で少し左に湾曲していること、本件事故当時同現場付近路上は乾燥し、夜間は街灯で明るく、見とおしのよい状況であったことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実および≪証拠省略≫によると、被告西潟は前示日時頃被告車を運転し、国道二四六号線上を北側から本件現場付近の右湾曲部分にさしかかった際前方を注視し、中央線を越えて反対車線に進入しないよう道路状況に応じ適切なハンドル操作をすることなく、漫然と直進走行したため、右湾曲部分付近において反対車線に進入し、おりから反対車線の中央線から二ないし三メートル西側のところを北進してきた計介運転の原告車の右前部に被告車右前部を衝突させ、同人を即死するに至らしめたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、本件事故は専ら被告西潟の右通行区分違反等の過失によって発生したものであって、同被告は民法七〇九条により損害賠償責任を免れない。
(二) 被告会社、同境野の自賠法三条および民法七一五条による責任について(原告らと被告会社、同境野、同大成との間の判断)
被告境野が本件事故当時被告会社の代表取締役であること、かねて被告車を所有していたが、昭和四五年三月七日被告会社を通じ被告西潟との間で同被告に被告車を代金一一万円で売渡す契約をしたことは当事者間に争いがない。
右争いのない事実、≪証拠省略≫を総合すると、つぎのとおりの事実が認められる。
被告会社は本件事故当時自動車修理業等を目的とする会社、被告西潟は訴外東京信用販売株式会社に勤務する者であり、被告西潟と被告会社もしくは同境野との間には本件事故の数年前はともかくとして、事故当時にあっては雇傭等業務上の指揮監督の関係はないこと、
被告境野の所有名義である被告車は一九六五年型の普通乗用自動車であるが、同車は専ら被告会社の業務の用に供され、実質的には被告会社の管理下にあり、かつ、被告会社がその収益処分権限を有していたものであるところ、被告西潟は被告会社の従業員である訴外川原征司から被告車のことを聞き、昭和四五年三月四日被告会社に対し被告車の買入を申し込んだところ、同被告がこれに応じ、同日被告会社と被告西潟との間で被告車を代金一一万円で売渡す旨の口頭による合意が成立し、即時被告車は被告西潟に引き渡され、同被告は同月七日被告会社に対し右代金の一部として四万円を支払い、同月二八日実弟を通じ右売買代金の残額七万円を被告会社に支払ったが、被告会社、同境野、同西潟は右売買の前後を通じ、被告車の所有名義の移転手続は行なわず、被告車は依然として被告境野の所有名義となっていること、
被告西潟は被告会社から被告車の引渡を受けたのち、東京信用販売株式会社への通勤等のために被告車を利用していたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右の事実によれば、被告会社、同境野は、被告会社において既に被告西潟に引き渡していた被告車につき、売買契約を結び、かつ、売買代金の一部を受領した昭和四五年三月七日以降においては、被告車に対し売主(一部代金未受領)としてのほかつながりを持たず、その運行支配および運行利益を喪失したものであって、本件事故当時いずれも被告車を自己のため運行の用に供していたとはいえないから、自賠法三条によって本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任を負わないものといわなければならない。
また前示のとおり、被告会社と被告西潟との間には雇傭等の業務上の指揮監督関係はないうえ、本件において被告西潟が被告会社の業務執行中に本件事故を発生させたと認めるに足りる証拠はないから、被告会社は本件事故について民法七一五条一項によって原告らに賠償責任を負わない。
(三) 被告大成の保険金支払義務について(原告らと同被告との関係での判断)
被告西潟は(一)で述べたとおり、原告らに対し民法七〇九条により損害賠償責任を負っているところ、原告らは同被告に代位して、被告大成に対し保険金請求をしているので、以下右請求の当否について判断する。
1 ≪証拠省略≫によれば、被告西潟は、原告らの主張する被告大成に対する保険金請求権を除いてはみるべき資産を有せず、原告らに対し本件損害賠償義務を履行していない状態にあるが、被告西潟は、本件事故発生後間もない時期において被告会社に対し被告大成から右保険が支払われるよう交渉することを求めたが、被告会社にこれを拒絶されたことが認められるが、その後においては被告西潟が右保険金請求権を行使したと認めるに足りる証拠はない。よって、原告らは被告西潟に対する前示損害賠償請求権にもとづき同被告に代位して被告大成に対する右保険金請求を訴求し得る地位にあるものということができる。
被告大成は、原告らと被告西潟との間において損害賠償責任につき確定すれば、保険金支払についての法律上の争いも解決するとして、訴の利益の存在を否定するのであるが、債権者代位訴訟の要件が充たされる場合にあっては、債権者と第三の債務者間で給付の内容が確定されることが現在の給付の訴であるか将来の給付の訴であるかを問わず、最も直接的な法律的紛争の解決方法ということができ、これに訴の利益が存することが明らかであって被告大成の右主張は肯定できない。
2 被告会社が、昭和四四年一〇月一六日被告大成との間で被告車について被保険者を被告会社、保険限度額は対人一名について一、〇〇〇万円とする対人賠償責任保険契約を締結したことは当事者間に争いがない。
3 ところで、被告会社が、被告車についての右保険契約上の権利を被告西潟に譲渡したか否かについて争いがあるところ、商法六五〇条の規定は自動車保険(車両保険のみならず賠償責任保険を含む。)について適用あることは疑いがなく、前示(二)のとおり、被告車はもと被告境野の所有名義であったが、実質的には被告会社が同車の管理処分権限を有していたもので、同車についての対人賠償責任保険契約における契約者かつ被保険者である被告会社が昭和四五年三月七日被告西潟に対し被告車を譲渡したものであるから、右規定によれば反証のない限り、被告会社は、同時に右保険契約上の権利を被告西潟に譲渡したものと推定されるといわなければならない。
≪証拠省略≫によれば、被告大成の主張のとおり、自動車保険契約において保険料の割引制度が存すること、保険契約者が保険期間中途において旧車を新車と入れ替えるにあたって、代替車について現契約と同一料率の割引を受けるため、保険契約上の権利を他に譲渡しない例がすくなくないこと、被告会社は被告車について二年間の無事故により二〇パーセントの保険料の割引を受けていたこと、被告車についての保険証券を同車を被告西潟に引渡した後においても所持していることが認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、≪証拠省略≫によれば、被告会社は本件事故当時乗用あるいは貨物自動車五ないし六台を保有していたが、右のうちにはその自動車保険契約において、右の保険料の割引を受けていたものもあることが認められ、また被告車は被告会社の業務の用に供せられていたことは前示のとおりであるところ、被告会社が、被告車の本件譲渡に際し、被告車に代る新規車両を既に購入していたか、あるいは購入する具体的な計画を有していたと認めるに足りる証拠はなく、さらに被告会社は、被告車の所有名義等は被告境野名義の状態で現在に至っているばかりか、右譲渡後本件事故発生に至るまでの間において右保険契約の変更等について被告大成に連絡のうえ、代替車についての新規保険契約においては被告車についての現契約と同一の割合による保険料の割引を受け得るよう折衝を進めたと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、被告会社は、被告車についての保険契約において保険料割引の利益を、既に保有している特定の他車両にあてるとか、具体的な購入計画にもとづいた購入予定車両に右利益を振替える必要と意思を有していたとは認めることができず、せいぜい被告車についての保険契約上の権利を留保しておけば、他車両について保険契約を締結しようとするときは、右割引率による利益を受け得るというにすぎない。そして本件のように無事故割引資格者が自動車を他に譲渡するが、その際右割引利益を他車に充てることもなく、また当分の間代替車を求めない場合において、保険契約者は概して保険契約上の権利を自己に留保しておくという慣習が存すると認めるに足りる証拠はないから、本件では被告会社が被告車の譲渡にあたり保険契約上の権利の譲渡についていかなる意思を有していたかを確定しうる慣習は存在せず、前示被告車の譲渡前後を通じての諸事情に照すと、被告会社が被告車についての保険契約において二〇パーセントの割合で保険料の割引を受けていたことおよび被告会社が被告車の引渡後においても保険証券を所持している事実をもっては商法六五〇条の規定による推定を覆すに足らず、他に右推定を覆すに足りる事実を認めるに足る証拠はないから、被告車についての保険契約上の権利は同車の譲渡と同時に被告西潟へ譲渡されたものと認めるのが相当である。
4 被告車についての前示保険契約は普通約款の適用を受けるべきものであり、普通約款三章三条において、被告大成主張のとおりの定めがあること、被告会社は被告西潟に対し被告車を譲渡した事実を被告大成に書面による通知をせず、保険証券に承認裏書の請求をしていないことは当事者間に争いがない。
ところで、原告らは、本件事故当時被告会社は被告大成の保険代理店の立場にあったから、被告大成と被告会社はいわば本人と代理人の関係となり、普通約款三章三条の通知等を要しないと主張し、これに対し被告大成は、第一回口頭弁論期日において、本件事故当時被告会社は被告大成の保険代理店であった旨を認める陳述をしたが、第四回口頭弁論期日において右陳述は真実に反し、かつ、錯誤にもとづくものであるから撤回すると陳述したが、原告らは右撤回に異議を述べているので、以下右の点について判断する。
自動車譲渡人であると同時に保険契約者または被保険者である者が保険会社自身であるときは、保険会社は保険契約上の権利譲渡の当事者というべきであるから、普通約款三章三条の通知等を対抗要件と解する以上(保険業界の実務において通知、承認裏書の要式性を重視しているとしても、それは対抗要件具備という法的性質を越えるものではないから)、右の場合保険会社に保険契約上の権利譲渡を主張するのに右通知等はこれを要しないといわざるを得ない。右の者が保険会社の代理人であるときも同様である。
そこで、≪証拠省略≫によれば、つぎのとおりの事実が認められる。
被告会社は、自動車修理業を主たる目的として昭和三四年に資本金二五万円で設立され、代表取締役には被告境野が就任し、その後資本金は二〇〇万円まで増資され、従業員は九名となったが、代表取締役は従前どおり変更なく現在に至っていること、
被告会社の従業員である訴外児玉佳也(以下訴外児玉という。)は被告会社の指揮監督のもとに自動車修理業のうち営業業務に従事していたものであるが、昭和四二年六月三〇日関東財務局に被告大成の損害保険代理店業務を行なう旨の登録をしたが、右業務を行なうにあたっては、被告大成から使用商号は「吉田モータース」とするよう指示され、被告会社の承認のもとにその旨届出たこと、
現に被告車についての本件保険契約締結にあたっての被告大成の代理店は「吉田モータース」であったこと、
被告大成の代理店「吉田モータース」の業務遂行過程で大量の保険契約を締結し得る状態に至ったとき、被告大成は被告会社に対し右の代理店名義を訴外児玉個人名義から被告会社名義に変更するよう求め、被告会社はこれに応じ遅くとも昭和四五年三月一七日までに被告会社の定款変更を行ない、同社の目的として損害保険代理業をも行なう旨定め、同月二五日その旨登記したこと、
被告会社は同年五月二一日被告大成と書面により損害保険代理店委託契約を結び、それと共に訴外児玉は同日関東財務局に対し代理業務廃止の届出をしていること、
被告大成の保険代理店は、保険契約の締結、変更解除等の申出の受付、保険料の領収または返還、保険証券の交付ならびに保険料領収証の発行および交付等の代理業務を行ない、そのために一定の営業所を設け、徴収した保険料の保管、収支明細書その他委託業務に関する帳簿を備え付け、これに必要な事項の記載と共に記録の整理保管をしなければならず、これに対し被告大成においても代理店に保険料領収綴、帳簿、書類、用紙、看板、器具を交付することがあること
以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。
右認定事実にもとづいて考えると、まず、関東財務局に対する損害保険代理店の登録商号は一貫して「吉田モータース」であって、訴外児玉が代理店として右登録していたときも、被告大成の指示によって右商号を用いていたこと、被告会社が被告大成と損害保険代理店委託契約を締結した日付と訴外児玉が関東財務局へ代理店廃止届をした日付が一致し、訴外児玉の名義で右登録していた期間は被告会社が定款上保険代理店業務を行ないえない期間にほぼ対応しているといって差し支えないし、また被告大成の代理店となるためには相当程度の人的・物的施設を要することが明らかであるところ、前示のとおり被告会社は自動車損害保険委託業務と密接な関連を有する自動車修理業を目的とする前示の規模の会社であるうえ、営業担当の一従業員にすぎない訴外児玉に被告会社名の使用を許したことに鑑みれば、訴外児玉が被告会社代表者境野の指揮命令を中心とする被告会社の人的組織と物的施設から独立し、独自に右委託業務を行ない得たとは考え難いところである。右事情と前示認定事実を合せると、被告大成との関係において保険代理業務に関しては訴外児玉と被告会社は実質的には同一主体とみるのが自然で、関東財務局への届出の名義、使用商号、被告大成との委託契約における名義において、訴外児玉佳也あるいは「吉田モータース」もしくは株式会社吉田モータースという名称を用いたのは、取締法規あるいは被告会社の目的との関係で形式を整えるためにしたものと考えるのが合理的である。ところで被告大成は、被告会社は本件事故当時被告大成の保険代理店であったとの陳述は真実に反していると主張するが、≪証拠省略≫はいずれも形式的側面において右主張に沿うにすぎず、結局のところ被告大成主張の右事実を認めるに足らず、その他右事実を認めるに足る証拠はない。そうすると、被告大成の右陳述は真実に反するとはいえず、原告らが異議を述べている本件にあっては、これを撤回することはできず、当裁判所は右事実を前提として判断せざるを得ない。
してみると、被告会社は昭和四五年三月七日被告西潟に被告車と共に本件保険契約上の権利を譲渡し、保険契約者として、被告大成に対し右の譲渡の通知等をなすべきであったところ、本件事故当時被告大成の代理店であって、前示の範囲の代理業務を行なうべき立場にあったのであるから、その時点において被告車および保険契約上の権利の譲渡当事者としての立場と被告大成の代理店としての立場を兼有していたということができ、被告会社は前示のとおり保険契約の変更の申出を受ける代理権限を有するから、被告西潟は被告会社に対し普通約款三章三条の通知等の要件を具備することなく、右保険契約上の権利の譲渡を対抗することができ、民法一〇一条および前示委託契約の趣旨からして右譲渡を代理店に対抗し得るときは、本人たる立場にある被告大成に対抗しうることは明白である。そうすると、被告西潟は普通約款三章三条の対抗要件を備えなくとも被告大成に対し本件保険契約にもとづく保険金の支払を請求し得るものと解される。
三 損害
被告西潟が負担すべき原告らの損害額を算出する。
(一) 葬儀費用―原告文子 四〇万円
≪証拠省略≫によれば、同原告は計介の葬儀費用として四〇万円以上の金額を支出したと認められるが、右≪証拠省略≫によって認められる計介の後記年令、職業、社会的地位等に鑑みれば、右記金額が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。
(二) 計介の得べかりし利益の喪失による損害
≪証拠省略≫によればつぎのとおりの事実が認められる。
計介は、生前自動制御工学の分野での研究者として著名で、東京工業大学教授として研究、教育の任にあたり、また家庭にあっては、原告ら(妻文子、長男良介、長女雅子)と生活を共にし、原告らの生計維持者の立場にあったこと、
計介は、死亡当時四四才(大正一五年一月一一日生)の男子で、生前は健康体であったから、本件事故によって死亡することがなければ事後少なくとも一五年間は生存し得たことが確実であること、
計介は死亡時の昭和四五年三月当時国家公務員教育職俸給表(一)一等級一一号俸の職員として東京工業大学から給料として毎月一六万一、四二九円、期末および勤勉手当として年間合計七七万四八六四円の収入を得ていて、同年は本件事故時までに一月から三月までの俸給を受領していたこと、
そして計介は本件事故にあうことがなければ、引き続き昭和六一年三月末日(停年退官時)まで同大学の教授にとどまって毎年別表2のとおりの金額の給料および期末ならびに勤勉手当を得ることが確実であること、
また、計介は死亡当時印税、講演料、原稿料等の名目で年間少なくとも七〇万円の収入を得ていたもので、その地位、学識からして今後少なくとも前示昭和六一年までの間は毎年右金額を下回わらない金額の右名目の収入を得ることができたことは確実であること、
また、計介が本件事故にあうことなく右大学に停年まで勤務を続けた場合には、停年時において原告ら主張の額を下らない退職一時金の支給を受けることができるものであったこと、
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで右に認定した計介と原告らの家族構成、右の収入額等の事実によれば、計介が生存していれば支出を要した同人の生活費および所得に対する租税額は計介の毎年の給与所得金額の五割相当額と雑所得の一割相当の和を越えることはないと認められる。
以上の各事実にもとづいて、中間利息は判決言渡まではホフマン単式、その後はライプニッツ複式によって控除し、昭和四六年三月一六日の現価として計介の得べかりし利益の喪失による損害を算出すれば原告らの主張する二、三三七万一、九一七円を下廻ることはない。
(三) 物損 二九万八、八〇〇円
≪証拠省略≫によれば、計介は昭和四三年一一月九日原告車を四九万八、〇〇〇円で購入したものであるが、原告車は本件事故により損壊し、使用不能となり、結局同車は廃車処分されるに至ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして右各証拠によれば、原告車は普通乗用自動車(スバルA一二型)であると認められるから、その耐用年数は六年であるとみるのが相当である。そこで以上にもとづいて、定率法によって原告車の本件事故時の現価を算出すると右記金額となる。
(四) 相続による承継
≪証拠省略≫によれば、計介は妻文子との間に長男良介、長女雅子をもうけたが、それより先前妻との間に長女訴外島根尚子(昭和二八年一月九日生)をもうけていることが認められ、これによれば計介の相続人は原告三名のほか右尚子の四名となるべきところ、≪証拠省略≫によれば前記尚子は横浜家庭裁判所において計介の相続を放棄する旨の申述をし、昭和四五年六月二九日右申述が受理されたことが認められ、以上によれば計介の相続人は結局のところ原告ら三名であり、原告文子は配偶者として、原告良介、同雅子は嫡出子としていずれも法定相続分(三分の一)に応じて、計介の被告西潟に対する損害賠償債権の三分の一相当額宛すなわち七八九万〇、二三九円宛を相続したものと認められる。
(五) 慰藉料
計介の前示年令、社会的地位および家庭での立場等の諸事情に鑑みると、同人の死亡によって原告らが多大の精神的苦痛を蒙ったことは推認に難くなく、本件に顕われた一切の事情を斟酌すると、右苦痛に対する慰藉料は原告文子については一七〇万円、同良介、同雅子については各九五万円を下らないものとみるのが相当である。
≪証拠省略≫によれば、計介の両親である伊沢弘一、同峯もまた計介の本件事故死によって精神的苦痛を蒙ったことが認められ、これに対しては計介の年令、地位等に照らし、各二〇万円をもって慰藉するのが相当というべきところ、弁論の全趣旨によれば、原告文子は昭和四五年一〇月頃訴外右両名に対し右各金員を立替払したものと認められるから、原告文子は被告西潟に対し右立替金の支払請求し得るものということができる。
(六) 損害の填補
弁論の全趣旨によれば、原告らは自賠責保険から五〇〇万円を受領し(原告らと被告大成との間では当事者間に争いがない)たことが認められ、原告らは右のうち二〇〇万円を原告文子の損害に、一五〇万円宛を原告良介、同雅子の各損害に填補したことを自認している。
(七) 弁護士費用 一五〇万円
≪証拠省略≫によれば、被告らは本件損害賠償金の支払をしないので、原告らは已むなく弁護士である原告ら代理人に本訴請求手続の遂行を委任し、その際原告文子が右代理人との間で、原告良介、同雅子の分を含めて、弁護士報酬額(一切を含めて)を判決または和解による被告らの支払額の一割と定め、これを判決言渡または和解成立日に支払う旨約したことが認められるところ、本件事件の難易、審理経過、殊に本件では原告らと被告大成との訴訟が中心を占めたこと、原告らの損害額に照すと被告西潟が負担すべき損害額としては右のうち一五〇万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。
(八) ところで前示のとおり、被告西潟は原告らに対し本件交通事故の損害賠償として、物損を除いて、二、四二七万一、九一七円の支払義務があり、被告大成は被告西潟の右賠償による損害に対し二(三)で述べたところにより、原告らに本件保険契約にもとづいて一、〇〇〇万円の限度で保険金を支払うべき義務があるが、対人賠償責任保険契約にもとづく保険会社の保険金支払義務は、被保険者が加害行為により被害者に損害を与えた後においてはその請求があったときから履行遅滞に陥るのが原則であると解するのが相当で、右は債権者代位権にもとづく保険金請求の場合にも妥当する。そこで、被告大成は原告らの本訴状送達日から本件保険金支払について履行遅滞に陥ったものというべきである。
なお、本件において原告らは訴状においては被告会社もしくは同境野を代位して被告大成に保険金請求をしているが、右請求と被告西潟の代位による保険金請求とは同一保険契約にもとづく保険金請求であって、両請求は被代位者が異なるにすぎないから、右訴状をもって原告らの被告西潟の代位による保険金請求について被告大成は履行遅滞に陥ると解して差し支えないと考えられる。
四 過失相殺
被告大成は、計介は原告車の運転について前方不注視等の過失を犯し、右過失が本件事故発生の一因となったと主張するが、二(一)で述べたとおり、本件事故は専ら被告西潟の通行区分違反等の過失にもとづくものであり、計介に本件事故発生に関し過失又はこれに準ずる落度があったと認めるに足る証拠はないから被告大成の右主張は採用しない。
五 結論
以上の次第であるから、被告西潟は原告文子に対し、九八九万〇、二三九円および内金八三九万〇、二三九円については本訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年三月一七日から、内金一五〇万円については本判決の言渡日である昭和四八年九月一一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告良介、同雅子に対し、各七三四万〇、二三九円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和四六年三月一七日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を各支払う義務があるから原告らの被告西潟に対する本件各請求を右の限度で認容するが、その余の各請求を失当として棄却し、原告らの被告会社および同境野に対する各請求はいずれも失当であるからこれらを棄却し、被告大成は原告らに対し一、〇〇〇万円およびこれに対する本訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年三月一三日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、原告らの被告大成に対する各請求は認容することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条一項を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高山晨 裁判官 大津千明 大出晃之)
<以下省略>